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「セールストーク」「アフターフォロー」2つのキーワードから考える銀行の金融商品販売スタンスを銀行員が解説 〜相手の「手の内」を知ることでメリットも〜【前編】

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先日、連絡を取り合っている際、担当者様から素朴な質問がありました。

「つい先日、銀行で金融商品をお勧めされたお客様(50代)との面談機会があり、何歳をゴールにどれだけの資産づくりが必要か?などを割り出し、お客様のリスク許容度、理解力、投資に対する考え方を考慮し、商品のデメリットがお客様のデメリットとならないようなご提案させていただきました。その際に、お客様が『この商品、なぜ銀行では教えてもらえなかったんでしょうか?』とおっしゃいました。おそらくヒヤリング不足であったり、たまたまその銀行さんで扱っていなかったのかとは思うのですが、ふと思いました。銀行では、金融商品を販売するスタンス、たとえばお客様の普通預金や定期預金から金融商品を販売する流れなどを教えていただけると・・・」

ここまで聞いて、さすがFPの方だと着眼点に感心するいっぽうで、苦しいところを衝かれたなあと困りました。「なぜ銀行では教えてもらえなかったのか?」というお客様の疑問は、まったくもってそのとおりです。そこで今回は銀行の金融商品販売のスタンスを

「セールストーク」「アフターフォロー」 という2つのキーワードから考えてみたいと思います。

この記事を読むと、以下のようなことがわかります。

  • 預金で儲からなくなった銀行は、手数料を稼げる金融商品を販売するようになった 
  • 銀行員にはノルマがあり「目標達成のために手数料が高い商品を売らなければ」といった方向に意識が向いてしまう
  • こうした背景から、銀行の金融商品販売のトラブルも増えている
  • でも、銀行の手の内を知れば自分にメリットもある

私は長く銀行員をしていますが、その経験の中で金融商品の販売にも携わった時期がありましたが、疑問に感じる部分も多く今では別の仕事をしています。そのため銀行の金融商品販売については「売り込む銀行員側と、売り込まれるお客様側という両方の視点」で考えていることをお話していきます。

資産形成や金融商品について考えている人や、銀行との付き合い方を知りたい人は是非参考にしてください。

銀行のセールストークとは?

では、銀行の金融商品販売を考える1つ目のキーワード「セールストーク」から解説します。なおここからの部分は、私がセールストークの研修で学んだ内容も含まれます。

  • セールストークで目指すゴールは当然ながら「成約」 
  • そのため限られた時間で有効な会話をし、成約にこぎ着けるか?が大事

こういった点から見えてくる、セールストークのポイントは以下の4段階となります。

 <銀行のセールストーク>

  1. きっかけ(会話の導入部)〜共感と親近感でふところに入り込む
  2. あおり(危機感を持たせる)〜このままではいけないと思わせる
  3. 必然性(提案に違和感を覚えさせない)〜「だからコレなんです」と必然性を強調
  4. 成約(クロージング)〜相手に「断わる理由」を考えさせない

(なおここからの内容は、銀行の金融商品に限らずセールス全般に通じる部分も多いので、読者の中でセールスに関係する人には参考になるかも知れません)

「セールストーク」「アフターフォロー」2つのキーワードから考える銀行の金融商品販売スタンスを銀行員が解説

セールストーク1. きっかけ(会話の導入部)〜共感と親近感で懐ふところに入り込む

まず来店してくださったことや、日頃の取引へのお礼を述べ、会話のきっかけにします。

この時点で相手に警戒されているとか、相手が嫌がっているようなら深追いはしません。なぜなら最初の会話(ファーストコンタクト)から拒否反応を示す相手には、そのあといくら無理押しをしても良い結果は出ませんし、無理に進めると苦情に繋がる恐れもあるからです。

いっぽうこういった呼びかけに答えてくれたなら「脈あり」として、もう一歩進めます。顧客のことは「お客様」ではなく「〇〇さん」などと名字で呼び、遠慮しすぎず、かといってなれなれしすぎない間合いで会話を進めるのが基本姿勢となります。そしてとにかくスマイル!スマイル!と笑顔で好感度を与え、相手の緊張を高めないようにします。ここまで、一見するとおざなりで嘘っぽいと感じるかも知れませんが、これは実際に銀行員が使っているセールストークです。

ですから、あなたが銀行に来店して、銀行員が応対を初めて会話が3フレーズ以上続いているとしたら、すでに「術中にはまっている」可能性(笑)もあるのです。

来店客は「選別」されている〜銀行の戦略

最近、銀行では来店する際に前もってネットや電話で予約するようにすすめています。これは来店されてからお客様を待たせないためという理由ですが、それ以外に前もって「顧客を選別」する狙いもあります。

基本的に来店予約をするときには「来店のご用向きを次の中から選択してください」といったように、顧客が銀行に来店する目的を確認しますが、ここで目的を把握すれば応対する担当者を振り分け、銀行にとって儲かる顧客とそうでない顧客に選別できるのです。

たとえば通帳の入出金や税金・各種料金の支払いや振込などは銀行窓口のルーティン業務で儲からない(お取引には感謝しますが)仕事なので、専門に雇用しているパートタイマーさんや派遣社員の窓口担当者が応対します。

いっぽう来店目的が「資産運用相談」「相続対策について」などであれば銀行員が応対して、金融商品販売につなげるといった体制が構築されているのです。これは予約無しで来店された顧客に対しても同様で、窓口の担当者端末では通帳を読み込ませると顧客の預金取引の全体像や家族の取引、そしてその顧客に有効と思われる情報(例・子供が小学校入学の年代なら積立型の投資信託や学資用の預金、保険商品などを勧誘しろ、と画面に表示される)がわかるので、窓口担当者が銀行員に取り次ぐといったこともよくあります。

つまり、あなたが来店予約をしていたら、すでに銀行ではあなたが儲かる客かどうか?を調べたうえで、「儲かりそうな顧客なら銀行員が待ち構えている」ことになるのです。

セールストーク2. あおり(危機感を持たせる)〜このままではいけないと思わせる

挨拶から始まる導入部に付き合ってくれた人は、言い換えれば他人の話を聞く時間的な余裕がある人で、ある意味セールスしやすい人とも言えるので、ここで目的に引き込むことが次のステップになります。

まず

「ところで・・・」
「話は変わりますが」
「そういえば先日テレビで」

などといった話題の転換が入るのが特徴です。そしてここでの重要なポイントは、ただ話題を買えるのではなく危機感をあおる発言を盛り込むことです。たとえば「最近は銀行の定期預金の金利も低いですよね。銀行員が言うのもなんですが」など、相手の危機感を掘り起こすキーワードを使って相手を引き込んでいきます。その反応で次に進むか?それとも今回はとりあえず一歩引くなどの判断をします。

(見込みがあるお客様にはしつこくしないで、次にチャンスを持ち越す姿勢も重要!目先の実績を追って、せっかくの優良見込み先であるお客様にしつこくして逃げられたらもったいない、と私は部下に指導しています)

「セールストーク」「アフターフォロー」2つのキーワードから考える銀行の金融商品販売スタンスを銀行員が解説

セールストーク3. 必然性(提案に違和感を覚えさせない)〜「だからコレなんです」と必然性を強調

銀行の金融商品勧誘で危機感をあおるのは、1つには当然ながら成約に結び付けるためです。したがって、相手に「効く」危機感のあおり方がポイントになってきます。

たとえば高齢のお客様なら、孫にお金を残したい(かも知れない)と想定して「低金利な状況では、定期にしておいてもほとんど増えないですよね!でもこの商品なら、長く運用することで、お金を増やしてお孫さんに残すことができるまも知れません」と本題に誘導していくのです。

ちなみに銀行では今回の記事で説明するようなセールストークや、金融商品販売の勉強会を頻繁に実施しています。そこではこういった説明のようにセールストークを解説したり、銀行員とお客様役に分けてセールストークの実地研修をしたり、優秀な成績をあげている銀行員の成功体験を聞いたりと、とにかく徹底的に金融商品勧誘のノウハウとセールストークを「叩き込まれ」ます。

なかにはこうした会社方針に疑問を感じて「私が銀行に入社したのは、おじいちゃんに投資を無理強いするためじゃないです」と言って退職する銀行員もいます。(このセリフは、実際に私が接した若手女性銀行員から、退職の理由を聞いたときの話です)

セールストーク4. 成約(クロージング)〜相手に「断わる理由」を考えさせない

ここでは「断わる理由を考えさせないキーワード」と「あとあと言い逃れができる表現」が重要になります。

たとえば

「おかげさまで多くの方に好評を頂いています」
「みなさまに提案させていただいております」
「おすすめです」

などがよく使われます。

クロージングとは成約のことで、セールストークをするのはモノ(ここでは金融商品)をうる側なので、成約できればクローズ(完結)というわけです。「Win:勝利」とか「Success:成功」でも意味は同じですが、こちらになると「無理やり」「力づくで自分の思ったとおりに」といったニュアンスが加わるので、あえて「クロージング」と使っています。

これも販売する銀行員に対し心理面での配慮(クローズなら完結したかしなかったか?というだけだが、勝利や成功を概念にすると、成約できないことが負け・ダメなこととなってしまうので)もあると個人的には考えています。

ところで、さきほど出てきた「おすすめです」は、セールストークでは非常に便利な言葉です。なぜなら、たとえば私があなたに金融商品の説明と勧誘をしている場面で、「この〇〇はおすすめです」と表現したとします。金融商品なので、運用によって利益が出ることもあれば、元本を割り込むこともありますが、特に損しているとあとから苦情になったとしても、販売時に私は「おすすめです」と推奨しただけであり、最終的には顧客の自己判断で成約になったと「言い逃れ」できるわけです。

逆にセールストークで「お得です!」「儲かります」といったキーワードは使わないのが鉄則で、こちらは「断定的な判断(の供与)」と呼ばれ、価格が変動する商品なのにあたかも安全で儲かることが確実だと誤解させるような表現になってしまい、こちらはトラブルに発展した場合には言い逃れできません。

【銀行員からのアドバイス】セールストークへの「自衛手段」

ここまでの説明を踏まえてお伝えしたいのは、銀行員のセールストークを知り、自衛しながら自分に有効な情報だけ吸収できるということです。そして、銀行員の手の内と狙いを知ることで、会話の主導権を握らせないことが大事です。自分が会話の主導権を持っているなら、銀行員の商品説明を聞くことも無駄になりません。

セールスする側の銀行員は、セールスのために社会情勢から経済動向など、なかには銀行独自の分析・情報を提供してくれますので、投資や運用にとって役立つ話もあるのです。

「今日は、いろいろとためになるお話を聞けて良かったです。ではこれで・・・」とさわやかに退席されたお客様がいて、このとき一所懸命セールストークを展開した私はがっかりしながら「お客様のほうが一枚上手だったな」となぜか嬉しかった経験があります。

ちなみにこのお客様は後日、自ら来店して私が説明した金融商品を購入しました。それが「あなたの説明を聞いて、他にもいろいろと検討して決めました」とお言葉をいただいた経験があります。

ここで参考として、銀行の「金融商品販売方針」を添付しました。【参考①】これは銀行が金融商品を販売する際の方針を公表しているもので「銀行は金融商品販売をしっかりやってますよ!」と自己アピールしている(と私はかんがえています)宣言のようなものですが、ここに記載されている勧誘手法などから逸脱していたなら、仮にあなたが金融商品を購入して将来銀行に不満を訴えるとき重要になってきますので、目を通しておいてください。

メガバンク、ネット銀行、地方銀行、そして信用金庫と並べたのは、内容は殆ど変わらないのですが、文脈や用語など微妙な違いがその銀行ごとの方針として感じられればと思ったからです。

【参考①】

<メガバンク>

  • 金融商品勧誘方針
    当行は、金融商品の勧誘にあたっては、法令及び以下の方針を遵守いたします。
    お客さまの知識、経験、財産の状況及びお取引の目的に照らし、適切な商品の勧誘に努めます。
    お客さまに商品やリスクの内容などの重要な事項をわかりやすくご説明し、十分に理解していただけるよう努めます。
    お客さまに、断定的な判断や事実でない情報を提供するなど不適切な勧誘は行いません。
    電話や訪問による勧誘は、お客さまのご都合に合わせて行い、ご迷惑な時間帯に勧誘することはいたしません。
    適切な勧誘が行われるよう、役職員に対し十分な研修を行い、知識の修得に努めます。 販売・勧誘に関するお客さまからのご照会等については、適正な対応に努めます。

三菱UFJ銀行/金融商品勧誘方針

<ネット銀行>

  • 金融商品勧誘方針
    私たちは、金融商品の勧誘・販売にあたり、お客さまの立場に立った説明を第一とし、次の勧誘方針を遵守します。
    私たちは、お客さまの資産の状況・運用経験・お取引を契約される目的などを十分把握したうえ、お客さまの意向と実状に適合した商品を、お客さまの立場に立った適切な説明により、勧誘することに努めます。
    私たちは、お客さまご自身の判断でお取引が行われるよう、商品のメリットだけではなくリスクや手数料などについても適切な情報提供に努めます。
    私たちは、勧誘にあたり、法令・諸規則を遵守し、お客さまの立場に立って、販売の方法・場所・時間帯に配慮するよう努めます。
    私たちは、断定的判断に基づく情報や、事実でない情報を提供したり、取引に係る損失の危険を告知しないなどお客さまに誤解を招くような説明は行いません。
    私たちは、不適切な勧誘が行われないよう、役職員に対し十分な行内研修を行い、正しい商品知識の維持・向上に努めるとともに、適切な勧誘が行われるよう内部管理体制の強化に努めます。
SBI新生銀行/金融商品勧誘方針

<地方銀行>

  • 横浜銀行の勧誘方針
    横浜銀行は、金融商品の販売などにあたっては、各種法令・規則などを遵守するとともに、次の各事項にもとづき、適切な勧誘をおこないます。
    お客さまの知識・ご経験・財産の状況・契約締結の目的などに応じて、お客さまのご要望に沿った金融商品の提供に努めます。
    お客さまに対して、商品内容やリスクなど重要な事項に関する説明を行ない、十分理解していただくよう努めます。
    良識を持った節度ある行動により、お客さまの信頼の確保に努め、お客さまにとって迷惑となる方法や時間帯での勧誘をおこないません。
    誠実・公正な勧誘に努め、不確実なことを断定的に申しあげたり、事実ではない情報を提供するなど、お客さまの誤解を招くような勧誘をおこないません。
    役職員に対する社内研修を充実し、金融商品に関する知識の充実をはかるとともに、適切な勧誘がおこなわれるよう、内部管理体制の強化に努めます。
横浜銀行/横浜銀行の勧誘方針

<信用金庫>

  • 金融商品に係る勧誘方針
    当金庫は、「金融サービスの提供に関する法律」に基づき、金融商品の販売等に際しては、次の事項を遵守し、勧誘の適正の確保を図ることといたします。
    当金庫は、お客様の知識、経験、財産の状況及び当該金融商品の販売に係る契約を締結する目的に照らして、適正な情報の提供と商品説明をいたします。
    金融商品の選択・購入は、お客様ご自身の判断によってお決めいただきます。その際、当金庫は、お客様に適正な判断をしていただくために、当該金融商品の重要事項について説明をいたします。
    当金庫は、誠実・公正な勧誘を心掛け、お客様に対し事実と異なる説明をしたり、誤解を招くことのないよう、研修等を通じて役職員の知識の向上に努めます。
    当金庫は、お客様にとって不都合な時間帯や迷惑な場所での勧誘は行いません。
    金融商品の販売等に係る勧誘についてご意見やお気づきの点等がございましたら、お近くの窓口までお問い合わせください。
京都信用金庫/金融商品に係る勧誘方針

銀行のアフターフォローとは?」に続く…