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「セールストーク」「アフターフォロー」2つのキーワードから考える銀行の金融商品販売スタンスを銀行員が解説 〜相手の「手の内」を知ることでメリットも〜【後編】

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「セールストーク」「アフターフォロー」2つのキーワードから考える銀行の金融商品販売スタンスを銀行員が解説 〜相手の「手の内」を知ることでメリットも〜【前編】

銀行のアフターフォローとは?

銀行で金融商品の販売が拡大するにつれて、トラブルも増えています。そのために銀行は「アフターフォロー」などと表現して、販売直後から1ヶ月後⇒半年後⇒1年後・2年後といった感じで、顧客に連絡を続けています。その目的は、運用状況など情報を提供するとともに、疑問や心配な点があれば話を聞いていろいろと説明するといった、文字通りのアフターフォローです【参考②】

しかしアフターフォローは、真のアフターフォロー以外にも「トラブルの種を早いうちに見つけて対処する」ためにも行われます。つまり

  • 金融商品を販売した顧客が不満を抱えていないか?
  • 銀行に騙されたと思っていないか?
  • 裁判に打って出るなど考えていないか?

などを探るのが目的です。

逆に言えば、ここまでやっているから大騒ぎになっていない、つまりは不満や苦情を抑え込む体制ができているとも表現できます。これは言い過ぎでなく、実際に私自身が仕事として「6ヶ月で〇〇人以上、電話や訪問によるアフターフォローを実施する」などの目標(要はノルマ)に向け対処したことがあるからです。

そこで次項では、実際のトラブルはどのようなものがあるのか?いくつか例を紹介し、そのあとにアフターフォローの具体的な方法も解説します。

【参考②】
商品・サービスの提供後も、継続的なアフターフォローを通じ、お客さまの安定的な資産形成や資産運用に役立つよう、市場動向、時価等の情報提供やアドバイスを行います。
名古屋銀行/金融商品に関するお客さま本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)基本方針/3.アフターフォローの実施を通じたお客さまとの信頼関係の強化

「セールストーク」「アフターフォロー」2つのキーワードから考える銀行の金融商品販売スタンスを銀行員が解説

現実に起きている銀行の金融商品販売トラブル

銀行の金融商品販売で、実際に起こっているトラブル例をいくつか紹介し、そのあとで銀行員として私の考えを含めて解説を加えたいと思います。

金融商品販売トラブル事例と、その結末

なおここからの内容は、全国銀行協会に寄せられた、銀行の金融商品販売に関するトラブル事例【参考③】で、顧客の不満申し出と、それに対する銀行の見解、そして結末を抜粋して例示しています。(下線部は筆者)詳細を知りたい方は引用を御覧ください。

1.説明不十分で購入させられた外貨建て保険の元本割れ損失補てん要求

  • 【顧客の申し出内容】
    銀行で購入した外貨建て保険の元本割れ損失の補てんを求める。
    私は銀行担当者から本件商品の内容、元本割れリスク等について十分な説明を受けておらず、また3年経過すれば元本が保証される商品であると説明され、担当者に言われるがまま本件商品を購入した。
  • 【銀行の見解・対応】
    当行担当者は、顧客に本件商品を提案したところ、購入を希望したため、販売した
    担当者は聴取及び所定の書面により、顧客の投資に対する意向や保有する金融資産の額、そして投資経験等を確認しており、本件商品の販売に問題はないと判断する 担当者は顧客に対し、所定の資料を用いて本件商品の内容、元本割れリスク等について十分な説明を行っており、説明内容に問題はなかったものと判断している。
  • 【結末】
    この顧客はそれまで投資経験がなく、銀行からの勧誘で今回の金融商品を購入したことが判明した。銀行に対し投資経験がない顧客に対する説明が不十分であったという指摘があっせん委員会(*)からなされた。そして最終的には、銀行が顧客損失の一部を負担するというあっせん案で和解が成立した。

2.不適切な対応で損失を被った外貨建て個人年金保険の損失補てん要求

  • 【顧客の申し出内容】
    銀行で購入した外貨建て個人年金保険の損失補てんを求める。
    私は銀行担当者から、退職金の運用方法として本商品の為替リスク等について一応の説明は受けたが、為替等について大きな変動があれば、担当者が適切にアフターフォローしてくれるものと考えて、本件商品を購入するに至った。
    購入当初は担当者から、運用状況の説明を適宜受けていたが、担当者が代わったことで、アフターフォローが行われなくなり、損失額の把握ができず評価損失が拡大した。
  • 【銀行の見解・対応】
    当行担当者は、顧客の退職金に係る資産運用のため本件商品を提案したところ、顧客が購入を希望したため、販売するに至った。
    担当者は聴取及び所定の書面により、Aさんの投資意向、保有金融資産、投資経験等を確認しており、本件商品の販売に問題はないものと判断する。
    担当者は顧客に対し、所定の資料を用いて本件商品の内容、元本割れリスク等について十分な説明を行っており、説明内容に問題はなかったものと判断している。
    担当者はアフターフォローについても適宜行っており、対応に問題はなかったと考えている。
  • 【結末】
    聞き取りの結果、販売の会話の中で顧客は「そもそもじぶんはあまり投資知識がない」と言っていたことが判明。そのうえで顧客に対し外貨建て保険を勧誘したこと自体、適切であったとはいえないとあっせんに委員会は指摘しました。またアフターフォローについても、顧客の要望に十分応えていたか疑問がないとはいえない点も指摘されました。最終的に、銀行が顧客に解決金を支払うというあっせん案で和解が成立した。

(*顧客が銀行の金融商品販売で損失を被ったなど、銀行取引に関する苦情やトラブルを、裁判以外の方法で解決する手段として創設されたのが「金融ADR制度」で、そこで顧客と金融機関のあいだに立って意見吸収から和解案の提示など解決に向けあっせんするのが「あっせん委員会」と呼ばれます。なお金融ADRについては本文下部でも触れます)

【参考③】
全国銀行協会相談室/あっせん委員会業務の実施状況/利用者からの声など業務の実施状況/あっせんの申立て事案の概要とその結果(2020年度第4四半期)1 保険窓販関係 (詳細はこちら

「セールストーク」「アフターフォロー」2つのキーワードから考える銀行の金融商品販売スタンスを銀行員が解説

銀行員はこう考えます〜トラブル事例と結末について

これらの金融商品販売トラブルを見て、銀行員で自分でも金融商品販売をした私はふくざつな思いになってしまいます。しかし読者=顧客側に立って意見を述べさせてもらいます。

まず販売のきっかけについて、銀行側の回答はそろって「提案したところ顧客が希望した」と言っています。しかし、金融商品販売トラブルの多くは投資経験の少ない、あるいは全く経験のない人への販売が多いのです。実態は銀行員から勧誘したわけで、お客様と膝を突き合わせニーズを掘り起こしたうえで、複数の選択肢を提示して選んでもらうFPのような対応ではないので、こういったトラブルに発生しているのだと私は考えています。

冒頭の『この商品、なぜ銀行では教えてもらえなかったんでしょうか?』という疑問もここにつながるものです。

銀行は、銀行が儲かる商品しか紹介しないし、そもそも銀行で扱っていないものは口にも出さないものです。もちろんこれは悪いことではありません。たとえば八百屋さんに魚は売っていませんし(売っている店もありますが、ここでは比喩として)、自動車販売店ではバイクを買うことはできないのです。そういった意味からすれば、銀行で扱っている金融商品しか販売しないのも、それはそれで悪とは言い切れません。

しかしその一方で、銀行などの金融機関はお客様のためを考える「顧客本位の業務運営」【参考④】を求められています。その点では、顧客本位の運営体制なら資産運用の相談でも、幅広く商品を紹介するべきですし、それが銀行で扱っていなかったなら、取扱い会社を紹介するなどの労を惜しまないのが、真の顧客本位の運営体制と言えるでしょう。しかし、もちろん銀行がそんなことをするわけもありません。だからこそ「できていないからお客様本位の運営体制をしなさい」と金融庁から言われていますし「できていないし限界も感じながらお客様本位とホームページに載せている」のが実態です。

またアフターフォローについても、これは顧客が満足・納得しなければ充分ではありません。担当する銀行員が「月30人にアフターフォローの電話をする」というノルマを達成しても、それは銀行員自信が充分なだけであって、顧客が充分に満足していることにはなりません。

このように、銀行の金融商品販売トラブルの根は深く、自分自身携わってきましたので他人事ではなく、だからこそ銀行の「お客様本位の業務運営体制」などを読むたび虚しく感じてしまうのです。

【参考④】
私たちゆうちょ銀行(以下「当行」といいます。)は、「お客さまの声を明日への羅針盤とする『最も身近で信頼される銀行』を目指します。」との経営理念のもと、全国約24,000の郵便局を中心としたネットワークをいかして、幅広いお客さまに金融サービスを提供しております。
当行は、従来からご利用いただいている貯金・送金といったサービスの提供に加え、「資産形成のサポート」等により、お客さまの幅広いニーズに積極的に対応していくため、2017年3月に金融庁が公表した「顧客本位の業務運営に関する原則」(以下「原則」という。)を採択し、同年6月に「お客さま本位の業務運営に関する基本方針」を制定いたしました。
また、2021年1月に金融庁により改訂された原則に対応し、「お客さま本位の業務運営」を徹底するため、当行の「お客さま本位の業務運営に関する基本方針」と「取組項目」の見直しを実施いたしました。
お客さまからお寄せいただいた声を真摯に受け⽌め、真に信頼される企業を目指し、「お客さま本位の業務運営」をさらに徹底してまいります。
経営陣がリーダーシップを発揮し、商品・サービスの改善と変革に継続的に取り組むなど、お客さまの安定的な資産形成と経済の持続的成長に貢献します。
ゆうちょ銀行/お客さま本位の業務運営に関する基本方針

「セールストーク」「アフターフォロー」2つのキーワードから考える銀行の金融商品販売スタンスを銀行員が解説

アフターフォローも銀行員のノルマ

銀行の金融商品販売は、販売して終わりではなくアフターフォローが大事になっているのはこれまでの説明で理解していただいたと思います。そしてその目的がお客様のためという真のアフターフォローだけでなく、銀行にとってのトラブルの種を発見して芽を摘むといった狙いがあることも説明しました。そのため銀行員に対しては仕事・ノルマとしてアフターフォローを貸しているのが実態です。なぜかというと(誰でもそうですが)誰でもアフターフォローはやりたくないものです。とくに銀行という職場では「獲得」「新規開拓」といった部分がクローズアップされがちで、アフターフォローなど言ってみれば地味な仕事はしたくないのが本音です。

しかし、ノルマにすれば給料に跳ね返るので自発的に取り組むようになります。もちろんお金になるとしても、本心は「アフターフォローなんてやりたくない」のです。私もアフターフォローをやっていた時期には「自分ではなく他人の販売で、しかもトラブルになっているお客様の不満解消を、なんで自分がやらなければいけないのか?」と疑問に感じたことも事実です。

こういった背景があり、過重なノルマによる問題や不祥事が発生している金融業界では、獲得実績とは別に、獲得に至るまでの「プロセス評価」(「OKR(*)」とも)をするようになり、またアフターフォローが顕著だと銀行内部で表彰するようなケースもあります。

(*OKR:目標設定、管理手法で「Objectives and Key Results」の略です。目標(Objectives)と主要な結果(Key Results)を合成した言葉になります。これまでの「成果主義」から視点を変え、計画方法を追跡、再評価することで成功までの過程を評価する考え方です)

【銀行員からのアドバイス】不当な金融商品勧誘などには「金融ADR制度」

あなたやご家族が銀行の金融商品販売でトラブルを抱えたり、銀行の勧誘方法などに疑問や不満を感じた場合、まず銀行の相談窓口などに連絡するのが一番ですが、そこでも解決しない場合には「金融ADR制度(金融分野における裁判外紛争解決制度)」という方法があります。

金融ADRは、裁判よりも費用や時間がかからず、金融分野に強い弁護士などで構成される中立・公正な専門家(「紛争解決委員」と呼ばれます)が、銀行と顧客の間に立ち、トラブルの解決を図る制度です。【参考⑤】

【参考⑤】全国銀行協会/全銀協ADRって何?

まとめ

今回は銀行の金融商品販売について説明してきました。銀行の中の人としては、競争を生き残るため金融商品販売に「手を染める」銀行の方針はある意味仕方ないと思う反面、従来からの銀行本来の仕事とは離れていってしまうのでは?と感じているのも事実です。

いっぽう顧客となる皆さんは、銀行の金融商品販売への考え方などを掴むことで、自分の身を守りつつマネーライフに有効活用(情報吸収に役立てる)するツールにできる可能性もあります。 この記事が参考になれば幸いです。