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シングルの女性が住宅ローンを組むのはむずかしいのか?〜「女性」「シングル」はローン審査にどう影響するのか、銀行員が解説します。【後編】

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※【前編】はこちら

シングル女性の住宅ローン審査・3つの「ハードル」とそれを飛び越える攻略法

ここからは、シングル女性の住宅ローン審査で想定される障壁(ハードル)について解説します。
まずお伝えしたいのは、残念ながら女性のシングルは住宅ローン審査で不利な面があるということです。そして、そのハードルを飛び越えなければ審査は通過できません。

ここからの内容は、私が勤務する銀行で実際にシングル女性のローン審査でチェックする項目に基づいています。審査について詳しく明かすことはできないのですが、私自身がシングル女性の審査をしている立場から「こうすれば審査が通る」と考えている内容も説明します。

ただし、それらを攻略法とはしていますが、裏技やマル秘テクニックではありません。

またシングルである点は、男性でも女性でもローン審査ではチェックするポイントが同じなので、「シングルは男女問わずチェックすること」「女性だけチェックすること」といったイメージで読み進めてください

ハードル1.女性ならではの「〇〇かも?」を審査で心配される?

「結婚して専業主婦になるかも?」
「妊娠、出産などで長期間休職して収入が減るかも?」
「子育てや教育のため家庭に入るかも?」

これらは住宅ローンの審査で重視されます。
なぜかと言うと、住宅ローンはあくまで借金であり、収入から返済しなければならないので、収入が減るライフサイクルは審査でマイナス要素になるからです。

とはいえもちろん「出産や育児で休職するからローンはダメ!」ということではなく、想定される将来のライフサイクルへの備え(例・積立NISAで資産形成しているなど)があるか?をチェックされるということです。

攻略法1.自分の人生設計を語れるように準備しておく

攻略法は、自分の人生設計をしっかり語れることです。
未来の予想は誰もできませんので、いつ結婚して、いつ出産するかなどわからなくて当たり前です。
しかし自分で将来を計画することはできますし、その計画に向かって日々生活していくと思います。

「結婚はせず、一人で自立して生きていくつもり」
「まだ決まった相手はいないけれど、28歳までには結婚したい」
「子供が大学卒業するまでの時間を考えると、結婚や出産を30歳代のうちにしないと」

このように、自分の思い描いている将来像をしっかり銀行員に語れるようにしておくことが大事です。
特に妊娠や出産は女性だけのライフサイクルなので住宅ローンを組むとき、しっかりと向き合う必要があると銀行員は考えています。

銀行の住宅ローン審査では「ヒアリング」といって、申込者からいろいろ聞き取ったことを審査で重視しています。これはネット銀行などを中心にスマホやパソコン経由で申し込んだ場合でも同じでも、必要に応じて銀行から「お話を伺いたい」と聞かれることがあります。

そして、ヒアリングで聞いた将来の人生設計などは「申込者本人の借入意思」として審査で重視されます。もちろん語った通りにならないからと言って、ローンを途中で返せなどと言われることはありません。

【注意】婚約の状態でパートナーと住宅ローンを組むのは慎重に!

ライフサイクルについて触れましたので、ここで一つ参考にお話します。
それは婚約者と一緒に住宅ローンを組むのは慎重に考える必要がある、ということです。

住宅ローンには「連帯債務(*)」「ペアローン(*)」といったように、2人で協力してローンを組み、一緒に返済していく種類のものがあります。

一般には夫婦で連帯債務、夫婦でペアローンを組むのがよくあるケースです。銀行によっては婚約の状態でも連帯債務やペアローンを組めることもありますが、その場合、将来結婚するのが大前提なので、もしも婚約解消した場合には住宅ローンの計画が大幅に狂う恐れもあります。

  • もう新居に住んでいて、返済もスタートしている
  • ローンは借りたが支払い前
  • 審査は通ったがローンは実行前でまだ借りていない

状況によって、新居と住宅ローンをそれぞれどうするか?考えて決断しなければいけないことになります。

また銀行によっては「婚約が解消された場合はローン契約を見直しさせていただきます」といった条件を付けられる場合もあります。つまり「結婚するから貸して」と約束して住宅ローンを借りたので、婚約解消により「約束を守れなかった」なら、最悪の場合は全額返済を求められる可能性もあります。

(*婚約などの取扱は金融機関によって異なりますので、ご自身で確認してください)
(*連帯債務:債務者=借りる人が2人のローン。2人で連帯して一つの住宅ローンを借りる形式で、どちらかいっぽうの口座から返済していく ローン契約も担保契約も一つ「例:2千万円のローン契約書に連名で契約、2千万円の担保・抵当権」)
(*ペアローン:それぞれ別々にローンを組んで返済していく形式。それぞれの口座で返済していく「例:1千万円の契約・1千万円の担保をそれぞれ一人で契約し、お互いが相手の保証人として署名する」)

ハードル2.その家に住みつづけられるか?

パートナーや家族がいれば、女性が住宅ローンを組んでも、当然ながらその家に(よほどのことがなければ)住み続けるでしょう。

これを審査では「定着性がある」などと表現します。いっぽうシングル女性(シングル男性も同じ)の場合は、必ずしもそうならない場合があります。そこで定着性に関して、想定されるケースを3つ解説していきます。

想定1.結婚するとき家をどうする?

例えばシングルの女性が、自分1人の家として分譲マンションを購入してローンを組んだ場合、そのあと結婚したときにパートナーの家で一緒に住むことも想定されます。そうなると女性のマンションはどうするのか?と審査では考えます。

こういった視点は「女は結婚して家に入る」(昔の表現なので気を悪くしたらすみません)といった、日本の古い家庭像が根強く流れているのかも知れません。

とはいえ住宅ローンはそこに住むことが大前提なので、パートナーの家に同居することになり空き家にすると住宅ローンとして成り立たなくなる可能性(*)もあります。

これはシングル男性も同じで、男女問わす結婚によって、相手も家を持っていたならどちらの家に住むか?住宅ローンがある人は選択を迫られることを、想定しておく必要があります。

(*住宅ローンを借りた家に本人が住まなくなったなら、原則論としては全額返済を求められる可能性があります。ここは金融機関との話し合いになり、たとえばローン種類を「セカンドハウスとしてのローン」に変更して返済を続けていくケースもあります。しかしその場合は、住宅ローンから違うローンになるので金利が高くなる、などのデメリットも想定されます。もちろん金融機関に黙って誰かに賃貸することはできません。万が一、他人に賃貸していたことが判明した場合には、最悪の場合は即時に一括返済を求められる可能性もあるので、絶対に他人へ賃貸してはいけません)

想定2.マンション購入は「疑われる」ことがある

これは男女を問わず、シングルの人が分譲マンションを購入する場合は疑われる事があるので注意が必要です。これは最近、自分が住むと嘘をつき住宅ローンで購入した分譲マンションを他人に賃貸する「不動産賃貸の偽装」が問題になっているからです。(俗に「なんちゃって住宅ローン」などとも呼ばれています)【参考①】

不動産投資専用のローンは住宅ローンより金利が高く、返済年数も短いのでこうした偽装が一部の悪質業者主導で発生しているというものです。

もちろんそうした悪意がなければ問題はないのですが、たとえば「この街が気に入ったから」とか「おしゃれだから」といった基準で分譲マンションを選ぶと、勤務先や生活圏から離れていたなら「なぜそこに住まないといけないのか?あやしい・・・」痛くもない腹を探られる可能性もありますので、これはぜひ覚えておいてください。

【参考①】住宅金融支援機構フラット35/
【フラット35】の不正利用に巻き込まれないために

想定3.実家住まいのシングル女性が住宅ローンを申し込むケース

上記した不動産投資の偽装と少し近いのですが、実家住まいのシングル女性が「仕事場」「自分だけの空間に」といった理由で住宅ローンを申し込む場合も、実家から会社に通えているならやはり「投資ではないか?」と疑われる可能性もあります。 

そもそも住宅ローンは「賃貸しか住む家がない」人が借りるものなので、実家という「自宅」があると、住宅ローンを借りること自体がむずかしいかも知れません。

攻略法2.「予定」があるならしっかり伝えておく

攻略法としては「予定があるならはじめからしっかりと金融機関に伝えた上でソーンを申し込む」ことだと思います。

例えばシングル女性で、将来をともにしても良いパートナーがいるなら「今は独身だが結婚する可能性もある。結婚した場合は相手の家に同居するかも知れないので、その時にはこの家は売却してローンを全額返済するつもり」といった具合に、しっかりと将来を見据えて予定を伝えてくれれば、ローン審査でもそれほど大きな足かせにはならないと思います。

このように自分の未来をしっかり考えている人なら、年収などの属性が弱くて審査に通過するか?が微妙なときでも、私なら「この人は、結婚した場合には向こうの家に同居する予定、その時は売却してローンを完済するつもりといったように計画性があるしっかりとした人なので、返済は懸念ない」と、担当者としては審査を通したいと稟議書(*)に書いて上司に提出するでしょう。

(*稟議書:会社で案件を上司に報告し対応の指示を仰ぐ文書 銀行など融資の審査で担当者が上司に対し「この融資はこういった理由から審査を通したい(あるいは断りたい)」と上司に諮るもの)

ハードル3.「シングル女性はすぐ転職する」と思われている〜「負の蓄積」と「先入観」

銀行などの金融機関には膨大な顧客データが蓄積されています。そして、それらから傾向を分析してセールスに活用したり、融資審査の基本データにしたりしています。

これは私の銀行の場合ですが、「シングル女性は転職する頻度が高い」という、シングル女性にとっては「負の蓄積」とも言えるデータが蓄積されています。

そのためシングル女性の住宅ローン審査では「今の仕事が長続きしなくても、ローンを返済していけるだけの貯蓄はあるか?」などと預金や運用の証拠(審査では「エビデンス」と呼んでいます)として、通帳などの提出をお願いすることがあります。

攻略法.3.転職理由も「物は言い様」

転職についてのこうした考え方は、女性に対する先入観の一つと言えなくもないのですが、残念ながら長い年月で構築されてきた銀行の審査スタンス、考え方は今も「男性中心」「男性目線」が残っているのです。攻略法としては、それを「しょうがない」と許容してあきらめるのではなく「そういうものだと踏まえて」対策などを考えていく事が大事だと、私は銀行員として、男性として考えています。

たとえば転職した場合もその理由を「自分に向いている仕事だから転職した」「自分の可能性を試したくてチャレンジした」などと、ポジティブに自信を持って語れば説得力があり、審査でもむしろプラスに作用します。

現在の住宅ローン審査では転職歴が多いことや、一つ一つの勤続年数が短いことは致命的なマイナス要素ではありません。確かにひと昔前の、たとえば私が銀行に入社した30年以上なら「勤続年数は最低で3年以上、それ以下は仕事が長続きしないから返済が懸念される」と審査が通らないケースが多かったものです。しかし働き方も多様化した現在は、転職はごく当たり前のことと銀行の意識も変わってきました。

ただ、ここで注意したいのは、転職理由が「人間関係で悩んだから」とか「仕事がイヤになったから」といったネガティブな表現は避けるべきです。こういった転職理由になると「そもそも勤労意欲がないから」と審査が通らない可能性もあるからです。もちろんこういった転職理由も普通にあることで、悪いことでもないのですが、住宅ローンの審査ではネガテイブに捉えられてしまうのです。

たとえば私が担当者なら、仮に人間関係に悩んで転職したと聞いても「なるほど、それで今の会社に移ったことで、前よりもっと前向きに仕事できるので良いステップアップですね!」と答えるでしょうし、融資の稟議書でも「転職したことでより安定性が見込まれる」と前向きに書きます。要は「物は言い様」ということです(笑)

まとめ

ここまでお話してきたことを振り返ると、やはり銀行の住宅ローン審査ではまだまだ「男性目線」「男中心」なのかも知れません。

そして

「男性は結婚して家庭を持つ」
「女性は結婚して家に入る」
「共働きのパワーカップルでも女性が出産、子育てで共働きから離脱するもの」

といった先入観が依然として今も残っているとも感じています。

こうした古い考え方は、最近のジェンダー平等の考え方によるところの「アンコンシャス・バイアス(unconscious bias)」【参考②】にあたるもので、是正していかなければいけないと私は考えています。

とはいえすぐには変わらないと思いますので、住宅ローンで「女性」「シングル」にはハードルがあると意識したうえで、ハードルは飛び越えないと進めないし、また飛び越えないと転んでしまうと考えて前に進んでください。

この記事で説明したのは、当たり前の事も多いのですが、逆に裏技やマル秘テクニックなどはありません。

あくまでもハードルを飛び越えるのは女性の、シングルのあなた自身であって、飛ぶための跳躍力を備えるために、この記事が参考になれば幸いです。

【参考②】内閣府男女共同参画局/アンコンシャス・バイアス(unconscious bias)