【銀行員が解説】シングルの自分が死んだら不動産はどうなる?
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「自分が死んだらアレはどうなるんだろう?」
「自分が死んだ時のためにコレはどうしておくべきか」
もし自分が死んだら、など日常生活では頭に思い浮かばないことだと思います。
でもクリスマスやバレンタインなど、結婚やパートナーのことを意識することもあるでしょう。
また年末年始やお盆に帰省すれば、親から結婚は?と聞かれたり、兄弟が結婚していたり、シングルであることを良くも悪くも考えさせられると思います。
そこで、いま独身の自分が死んだら何が起きるか?を一度整理して考えてみましょう。
勤続30年の銀行員である私は、仕事でたくさんの「お金と死」を見て、読者の方に伝えたいことがあります。
そこで
- 自分が死んだら不動産はどうなる?
- 自分が死んだらローンはどうなる?
- 自分が死んだら資産運用、投資はどうなる?
の3つを、法定相続人など基本的な部分から、何がおこるか?まずいことはなにか?今からできることはないか?を一緒に考えましょう。
注)最近の社会における性の多様性やライフスタイルの変化などにより「パートナーシップ宣言」などもふえています。いっぽうこの記事では、従来の民法に沿って説明をしていますので、結婚観も「男性と女性が婚姻、入籍して子供を授かる」といった旧来の夫婦像で記載しています。
それは問題提起をシンプルにするためであり、パートナーシップや性の多様化を否定するものではありません。
シングルの自分が死んだら不動産はどうなる?
まず不動産についてですが、自分名義の不動産は、自分が死んだら誰かに引き継ぐ必要があり、そして、場合によっては不動産が「負動産」になる可能性もあります。
不動産の相続の流れをおさらい
そもそも、不動産を相続するときの流れはどうなるのか?
基本事項から説明していきます。
不動産相続の流れ①遺産分割協議書で引き継ぐ人を決める
売買などで不動産の名義変更をしたり、不動産に担保を設定したりなど、不動産に関する様々な動きを登録するのが登記で、所有者が死亡して名義変更するなど相続が原因となるものを「相続登記」と呼びます。
一般的に相続登記では「遺産分割協議書」が必要になります。
遺産分割協議書とは文字通り、遺産を分割するための協議(話し合い)をまとめたもので、死亡した人が所有していた不動産を誰が引き継ぐか?ということを当事者の間で話し合い、その結果を記録したものが遺産分割協議書なのです。
遺産分割協議書についてその他ポイントをまとめると以下の通りです。
<遺産分割協議書のポイント>
- 法定相続人など当事者が署名捺印(実印)する(外国在住など印鑑登録制度がない場合には署名も可能)
- 相続放棄をすれば当事者から外れる(相続放棄は「もともと相続人ではなかった」という扱い、つまり他人と同じになるので遺産分割協議書には一切無関係となる)
- 協議の取りまとめや書類作成などは弁護士や司法書士など専門家が扱うのが一般的
不動産相続の流れ②相続で名義変更
実際に相続登記をする際には、遺残分割協議書と印鑑証明などを必要書類として、法務局に提出して登記をします。
相続登記には費用が必要になります。
法務局に登記をする場合には手数料相当の登録免許税(具体的には登記印紙を購入し納付する)が必要になります。
不動産の名義変更(登記では「所有権移転」と呼ぶ)の登録免許税は、一般的に「不動産の固定資産税評価額×0.4%」ですが、相続登記では対象者や時期を限定し登録免許税が減免される場合があります。【参考①】
また、ひとくちで名義変更と言っても、不動産の所有権以外に住宅ローンなど借入の担保も名義変更が必要になります、(こちらは「ローンはどうなる?」の項で説明します)
【参考①】 法務省/「相続登記に係る登録免許税の免税措置について」
https://www.moj.go.jp/content/001370027.pdf
法定相続人の基本を掴む
自分が死んだら、自分の遺族が自分の不動産について遺産分割協議をし、相続登記が必要になります。
したがって、自分の相続人は誰なのか?を知っておくことが重要です。
相続において相続人とは「法定相続人」を指しますが、まず、法定相続人と法定相続分など基本的な知識を掴んでおきましょう。
ちなみに相続人が一人しかいない=協議:話し合いをする相手がいない場合など、遺産分割協議書が不要な場合もあります。
いっぽう相続人間で揉めることもなく、誰がなにを相続する平和裏に決まっていたとしても、手続き上は遺産分割協議書を作成するのが一般的です。
「協議書」の表現を見ると、揉めているイメージが強いかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
法定相続人〜誰が相続人になるのか?
誰が法定相続人になるのか?は、死亡した人の家族構成でも変わってきますが、基本的な相続人の範囲や、その法定相続人が財産を相続できる割合(「法定相続分」と呼びます)などは、民法で決められています。
まず相続人の範囲ですが、以下の通り優先順位があり「第1順位」は「第2順位」より優先されます。
<法定相続人の範囲と優先順位>
相続の順位は自分の前の人がいなくなってから、やっと自分の順番が回ってくる仕組みです。言い換えれば、自分より優先順位が上の人がいる限り、自分は相続する権利がないことになります。
たとえば、第1順位の人がいればその人で打ち切られ、第2順位は第1順位の人がいない場合に限り順番が回ってくる原則です。(第3順位も同様)
- 【配偶者】
配偶者は常に相続人です。これは別格とも言える扱いで、配偶者以外の人には優先順位があるというように、配偶者は最優先になっています。(*内縁関係の場合は相続人にはなりません)
しかし、配偶者は別格ではあっても、第一順位以下、相続人がいればその人と相続財産を分ける仕組みになっています。
したがって配偶者は相続の範囲では別格の最優先ですが、他に相続人がいれば独り占めはできないのです。(ネガティブな表現ですが、このほうがわかりやすいと思います)
また、説明したとおり相続においては配偶者が別格ですが、それも離婚した瞬間に終わりとなります。
法定相続人全体を見渡せば、すべて血の繋がりがある(直系)血縁者ですが、当然ながら配偶者はもともと他人であり、死亡した本人と血のつながりはありません。だから、配偶者という地位は相続では絶対ですが、離婚した瞬間に終わりになるという意味なのです。
ただし配偶者と離婚した場合でも、死亡した人とその子供の血縁は途切れることがありませんので、その地位には影響がありません。 - 【第1順位】直系卑属
直系卑属(ひぞく)とは、子供や孫など自分の血を引いた子孫という意味です。ひとくちに子供といっても実子(法律用語では「嫡出子」と呼びます)だけでなく、認知した子供(「非嫡出子」)や養子も含まれます。
また子供が死亡している場合は孫⇒ひ孫⇒玄孫(やしゃご)というように、血縁が続く限り相続人の範囲も続きます。 【参考②】 - 【第2順位】直系尊属(そんぞく)
直系尊属(そんぞく)とは、自分の両親や祖父母のことです。
こちらも上(曽祖父母⇒高祖父母)といったように続きます。 - 【第3順位】兄弟姉妹
兄弟姉妹とは自分の血を分けた兄弟のことで、その兄弟姉妹がすでに死亡している場合にはその子供(甥姪)が相続人になります。ただしその甥姪が死亡してもその下には権利がないのが特徴です。
~ 【参考②】 法務省/民法の一部が改正されました
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00143.html
法定相続分〜誰がどのくらいの割合で遺産を相続できるのか?
次に財産を相続できる割合である法定相続分についてです。
<法定相続分の例>
まず大原則として、同じ順位の人が複数いる場合(子供が3人など)にはその人達で法定相続分を均等に分けます。
またこの法定相続分とは、あくまで民法で定められた基礎的な分配割合であり、必ずしも法定相続分のとおりに分配する義務はありません。
- 【配偶者と子供】
配偶者=2分の1 子供=2分の1(複数いれば人数で均等に分ける・以下同様) - 【配偶者と直系尊属】
配偶者=3分の2 直系尊属=3分の1 - 【配偶者と兄弟姉妹】
配偶者=4分の3 兄弟姉妹=4分の1(死亡していれば甥姪も)
【参考】法定相続人を銀行員はこうやって暗記しています
少し解説ばかりになりましたので、ここで閑話休題として、法定相続人を銀行員の私が自分なりに、分かりやすく整理している暗記方法を紹介します。
<銀行員の「相続人暗記法」>
- 法定相続人の順番はとなり(隣)・下・上・横の順番
- となりとは配偶者のこと
でも配偶者は別格だが離婚すれば終わりで、なぜなら血のつながりはないから - 下(子孫)と上(親や祖父母)は近い順で、しかもエンドレス
- 横(兄弟姉妹)はその本人と、その次(甥姪)までで終わり
何やら呪文のようですが、ここまで説明したことをざっくりとカバーしていると思いますので、よろしければ参考にしてください。(このフレーズは、お客様に相続をわかりやすく説明するとき実際に銀行員の私が使っています)
また甥姪についてですが、上記のように甥姪も法定相続分が発生するケースもあります。
しかしこれを配偶者からみれば、死んだパートナーの甥姪など、ほとんど会ったことも無いような人に財産を「奪い取られる」と感じられることもあるでしょうし、逆に甥姪は「遺産が転がり込んでラッキー!」といったケースも想定されます。
こうした状況を俗に「嗤う相続人」などとも呼びます。(「嗤う」=あざけり笑うこと)
シングルの人が死亡した場合の法定相続人と法定相続分
法定相続分で説明したのは、あくまで配偶者がいるケースです。
法務省や国税庁などでモデルケースにされているのは、多くがこのように配偶者がいるパターンで、このあたり時代の流れに追いついていないなあ、と感じるのは私だけでしょうか?
とはいえシングルの人が、自分が死んだときの相続人を把握しておくことは重要です。
そこで、こちらも想定されるいくつかのケースを例にあげてみました。
ここでモデルとなるシングルの人は婚姻、離婚歴の有無に関わらず子供(嫡出子も非嫡出子も養子も)はいない設定です。(子供がいればすべて子供が相続しますし、それは本人も親として異存は不安は無いでしょうから、ここでは省略しました)
シングルの人が死亡した場合の法定相続人
まず繰り返しになりますが、配偶者はいないので別格扱いはありません。
離婚した元配偶者がいても、自分の相続には一切関係ないのは説明したとおりです。
銀行員的な表現を使うなら「隣と下はいないので、上と、その次に横」となります。
【第1順位(上)】両親や祖父母(直系尊属)
実の親が健在なら、両親が第1順位になります。
また両親のうちどちらかが他界していたとしても、残りの一人だけが相続人となります。
(第1順位が一人でもいれば、第2順位には順番が回ってこないから 前出)
そして両親がともに他界していても、祖父母・曽祖父母が一人でもいれば、やはりその人だけが相続人になります。
(例1 父は他界していても母が健在なら、シングルの人が死んだときの相続人は母だけ)
(例2 両親は他界し、ひいおばあちゃん(曾祖母)がいれば、その人が唯一の相続人)
【第2順位(横)】兄弟姉妹と、その次に甥姪
両親はともに他界し祖父母など上の人もおらず、家族は実の兄弟姉妹だけとなれば、ここではじめて兄弟姉妹が第2順位として相続人になります。
このとき兄弟姉妹が他界していればてもその下、甥姪までが相続人になれますが、甥姪の子供には相続権は回ってきません。
(例3 両親は他界しているが実兄と妹がいれば、お兄ちゃんと妹が均等に相続人となる)
(例4 両親は他界して姉は元気、妹は自分より早く死んだがその子供の甥姪が一人ずつ
この場合はまず姉と妹で均等の相続分(このケースでは2分の1ずつ)でsり、その妹の相続分:2分の1を甥姪で更に半分ずつ(4分の1)相続することになる)
このように、子供のないシングルの人が死亡した場合は、教科書的な相続分の説明とは少し異なる相関関係になる点に注意が必要です。
さらに、相続人となった甥姪が未成年だった場合は、相続手続きの代理人として親権者も登場してきます。
たとえば相続人の甥姪の親権者(例・兄の奥さん)も当事者となることがあり、人間関係はさらに複雑になります。
ここまで読んで、いろいろと不安に感じる人がいたら「もし今日自分が死んだら相続人は誰と誰で、それぞれどんな割合で自分の資産を分けるんだろう?」と想像してみてください。
次の項で、シングルで死んだ女性の死後に起こったトラブルを紹介していますので、課題やリスクを考えながら読み進めても良いと思います。
【銀行員は見た】独り身の女性が亡くなったあとに起きた「他人同士の資産争い」
(*個人情報の点から修正箇所もありますが、私が銀行員として実際に見た事例です)
80歳を超えても元気だったAさん・女性は、過去に結婚をして夫に先立たれ、子供はいませんでした。
そのころの私は預金の勧誘で、定期的にAさん宅を訪問していました。
身寄りのないAさんは一人暮らしでしたが、幸い近所に住む50代の女性・Bさんが長年に渡り面倒を見てくれて、まるで実の子供のように接してきたそうです。
ところがその後Aさんは体調を崩し、やがてお亡くなりになりました。
(ここからは後に聞いた話です。そこは小さな田舎町でしたので、人の噂もすぐ広がるようなところがありました。)
子供がいないAさんは実兄が一人健在で、ということは、ただ一人の相続人でした。
しかしBさんが
「自分はAさんのそばにいて、身の回りの世話をしてきた」
「Aさんが、自分が死んだら財産は私(Bさん)に全部渡すと言っていた」
などとして、裁判で争うことになったようです。
その後の結末としては、実兄が相続人としてAさんの財産をすべて相続し、Bさんに対してはこれまで面倒を見てもらったとしていくばくかの金銭を渡したとのことでした。
実兄は、それまで音信不通だったのに、Aさんがが死んだ途端に家に来てテキパキと家の片づけから相続手続きまで済ましたそうで、隣近所では「お兄さんはAさんが死ぬのを今か今かと待って、いつでもすぐ動けるように準備万端だったようだ」と噂になったそうです。
またBさんも「結局は金目当てで身の回りの世話をしていただけだったんじゃないの?」と囁かれるようになった、と言うのが顛末です。
まとめ
ここでお話したのは銀行員の私が見聞きした事例ですが、これをシングル女性に置き換えて考えると、たとえば親しくしている友人の友情に報いるため「私の資産は貴方にすべて遺すね」と決めても、口で言っただけでは何の効力もありません。
もちろん遺言書を書けばある程度の拘束力はありますが、それでも法定相続人が不服なら揉めますし、最悪の場合は裁判になるかもしれません。
このように、もしあなたの気持ちが原因で争いごとに友人を巻き込んでしまったなら、友情があなたの友人を苦しめる可能性もありますので、ここは慎重に考えるべきでしょう。
シングルの人が死んだら、相続人(親や兄弟など)が不動産の相続登記をして引き継ぐことになりますが、それが分譲マンションで受け取った人が住むこともなければ売却するしかなく、かといってすぐに売れるとも限らず、しかもマンションなら維持費も考えなければいけません。
また、たとえば自分が死んで兄弟姉妹の誰かと甥姪が相続するのが一個の不動産だけなら、土地を半分に分けるより売って現金化したほうがいいと思うかも知れません。
いずれにせよ不動産の相続では、残された相手は必ずしも喜ばしいモノではないのです。
このように、シングルの人が死んで残した不動産が、遺族や相続人にとって「負(不)動産」になることもあるのです。
そのために今できることは、まず自分がシングルで死んだあと残るのが不動産であれば、自分にとっての「将来の相続人」に対し、タイミングを選びある程度伝えておくのも一つの考え方です。
とはいえこういった内容はどうやって切り出すかも難しく、そうした悩みも含めFPなど信頼できるプロの力を借りるのも有効です。