物価上昇しても給与は上がらない!今日本人が好景気を実感できないワケ
- 独身女性
- 共働き夫婦
- 定年間近
- マネーの基本
長期のデフレからの脱却、景気回復を目指して安倍政権が掲げている「2%のインフレ率(物価上昇率)」の指標。消費者に「インフレ期待」をもってもらい消費を活性化する狙いがあり、景気の好循環をつくる入口としてこの数値を目標に金融緩和が進められてきました。
政府は景気の現状について「緩やかに回復が続いている」との判断を示していますが、NHKの4月の世論調査は「続いていないと思う」が半数を超える辛い結果に。政府が「今の景気回復が戦後最長になったとみられる」と発表した後の2月調査でも、「戦後最長の景気回復 実感は」との設問に「実感している」と答えた人がわずか8%と消費者の景気回復の実感は希薄です。
なぜ好景気という実感がないままなのでしょうか。その背景を紐解きたいと思います。
アベノミクス関連記事(2021.10UP)
立憲民主党によって「お金持ちをさらに大金持ちにしただけに終わった」と総括されたアベノミクス。
岸田首相は「新しい資本主義」をうたい、「成長と分配の好循環」の実現を目指すと表明しています。
その渦中で私たちが、私たちの力で始められることについて紹介しています
このページの目次
賃金上昇が物価上昇に追い付かない
バブル期 vs 現在
今年1月、政府は「戦後最長の景気拡大」なる見解を示しましたが、戦後の好景気としてよく話題に上るバブル景気と比較するとその実感がもてない理由がわかります。
下の図はバブル期と現在の平均給与と実質賃金を比較したものです。
実質賃金とは物価上昇率を加味した賃金のことで、名目賃金から消費者物価指数を除することで求められます。
バブル期(1989年) | vs | 現代(2017年) |
402万円 | 平均給与 | 432万円 |
100 | 実質賃金 | 95 |
※平均給与出所:国税庁長官官房企画課「民間給与実態統計調査」 ※実質賃金出所:厚生労働省「毎月勤労統計調査」 |
現代の平均給与はバブル期より上昇している一方、実質賃金はバブル期より下降しています。このことから現代の賃金上昇が物価上昇に追いついていないこと(物価上昇が家計を圧迫していること)、そのため購買力(商品やサービスを買うことのできる財力)はバブル期より低下していることが確認できます。
物価上昇のからくり
賃金上昇が物価上昇に追い付かず購買力が低下しているのはなぜなのか、物価上昇の仕組みを理解すると見えてくるものがあります。
本来、インフレは好景気な状態で需要が活性化することで起こります。
1.円安により輸出系企業が儲かる
2.メーカーに部品の発注が増える
3.発注が増えた分の売り上げが、原材料輸入コスト増を上回る
4.給与が上がる(輸出系企業、メーカー)
5.お金が市場に出る
6.給与が上がる(サービス業)
という具合に循環していきます。
安倍政権は、日本銀行と連携し通貨供給量を拡大したりマイナス金利を導入したりして市場に出回るお金を増やすことで、経済の活性化を狙いました。そして為替相場は金融緩和政策前より円安に進み、輸出企業の業績は改善しましたが、「2%のインフレ率(物価上昇率)」は2018年時点で0.9%と未だ達成できていません。
好景気は物価上昇の要因の1つではありますが、そのほかにも物価上昇の要因は存在します。たとえば消費税増税。今年10月には10%への増税が予定されていますが、現在の8%へ増税した2014年度の消費者物価指数を見ると2.9%と高い上昇率です(その前年・2013年度は0.9%)。
燃料や食料の多くを輸入に頼っている日本では、「輸入インフレ」の影響も大きいでしょう。現在の為替相場は金融緩和政策前より円安に進んでおり、円安は輸入の面では不利になります。一方、輸出の面では有利になります。
円安とは、1ドル=100円だった為替相場が1ドル=200円になることです。1ドル分のものを買うのに100円ですんでいたのが200円払わなければならなくなる、つまり円の価値が低くなることを円安と言います。
以下の図は輸出入における円安の場合の仕組みを表したものです。
輸出 | |||
為替相場 | 商品価格(円) | 商品価格(ドル) | |
1ドル100円 | 100万円 | 1万ドル | |
円安になる | 1ドル200円 | 100万円 | 5000ドル |
輸出品の外国での価格が安くなるので、よく売れるようになる=円安が有利 |
輸入 | |||
為替相場 | 商品価格(ドル) | 商品価格(円) | |
1ドル100円 | 300ドル | 3万円 | |
円安になる | 1ドル200円 | 300ドル | 6万円 |
輸入にお金がかかり、国内の物価を押し上げる=円安が不利 |
このように物価上昇は複数の要因が重なり合って生じるものであり、物価上昇が賃金上昇を上回ることもあり得るのです。また、円安による恩恵を受けた企業が利益を賃金に還元できていないことも考えられ、法人企業統計調査によると2017年度の企業(金融業、保険業を除く)の利益剰余金(内部留保)は約446兆円で「アベノミクス」前の2011年度から約164兆円増えた一方、実質賃金は「アベノミクス」の6年間(2012~2018年)のうち4年間が前年比マイナスと出ています。
税・社会保障負担アップ
家計を圧迫するのは物価上昇だけではありません。税金や社会保険料の負担も家計に重くのしかかっています。
朝日新聞に興味深い事例が掲載されていたのでご紹介したいと思います。
家計簿をつけながら、やりくりを考え直す必要を感じている都内在住の女性(46)で、
会社員の夫(56)、大学生の長女(19)、高校生の次女(17)、実母(81)との5人家族。
毎年、年の初めに費目ごとの予算を立てています。
アベノミクスが始まった直後の2013年4月と見比べると、夫の月給は4万1238円上がったものの、税金と社会保険料の合計も3万899円増加。給料が増えた分の多くが税金と社会保険料のアップに消えています。
政府が2005年度以降、高齢化に伴いふくらみ続ける医療費・介護費をまかなうために、所得税の減税や控除の拡大といった政策を廃止・縮小し始めているのですが、実際どのくらい負担が増えているのか、主な制度改正の経緯はコラム『年収1000万円世帯は損!?昔と今でこんなに違う』をご覧ください。
経済成長⇒給与増の黄金期はもう来ない!?
先述した「2%のインフレ率」。さらに言及するとこの数値目標は「持続可能な物価安定の目標」、つまり一時的なものではなく毎年前年比2%増という継続的なものを指します。
物価の安定を図るには物価上昇以上の経済成長・賃金上昇が求められますが、果たして今後日本の経済成長・賃金上昇は望めるのでしょうか。
日本の給与は低空飛行
日経ビジネス(2019.04.02 No.1988)に掲載されたデータにこんなものがあります。
実質国内総生産(GDP)と所定内給与の伸び率、就業者数増減の推移です。
バブル期の所定内給与(残業代など除く)の伸び率は5%超なのに対し、2018年は0.6%とわずか。さらに、GDPは1990年が4%台、2018年が0.7%だったことを考えると、日本には成長と給与増の黄金期はもう来ないという思いさえ抱かせます。
差が目立つ世界との給与差
海外へ目を向けてみるとどうでしょうか。先述の日経ビジネスを引用すると、米国、ドイツ、中国(上海)、日本の4ヵ国の給与・報酬比較において日本は、「課長クラス」の中でも役割が小さい人の年収は3位。役割が大きな課長になると上海の企業に追い抜かれて4位に転落、「部長クラス」だと大きく引き離されています。米国とは、役割の小さな部長で1000万円超の差が出ています。
経済成長についても見てみましょう。PwCが「2050年の世界」をテーマに発表した調査レポートによると、世界の経済力は現在の先進国から新興国へとシフトする長期的な動きは2050年まで続く見込みで、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、ロシア、トルコの新興国(E7)は2050年までに年平均3.5%のペースで成長。さらに、主要経済大国7ヵ国のうちアメリカを除く6ヵ国は新興国が占め、日本は世界順位8位まで下降するとの見方を示しています。
人口減少が経済成長に与える影響
日本の賃金上昇・経済成長がふるわないのは様々な要因が考えられますが、その1つに日本の人口減少が挙げられます。先述の「2016-2050年の年平均実質GDP成長率の予測」からわかるように、経済成長が著しい上位国は総じて人口増加率もプラスに動いているのに対し日本はマイナス。国連の「世界人口推計 ‐2017年改訂版‐」によると、日本の人口増加率は2050年代で-0.5%、2060年代で-0.6%と予測されています。
人口減少が経済成長にどのように影響するか、内閣府のホームページで以下のように説明されています。
人口規模、人口の急減及び人口構成が経済成長にどのような影響を与えるかについて、経済成長を考える際に一般的な考え方である成長会計に基づいて考える。成長会計では、経済成長を決める要因は、労働投入、資本投入及び全要素生産性であるとされる。
人口が減少することは、労働投入の減少に直接結びつく。技術進歩などによる生産性上昇に伴って成長率が上昇するのに加えて、人口増によって労働力人口が増加して成長率が高まることを「人口ボーナス」と呼び、この反対の現象を「人口オーナス」と呼ぶ。今後、人口オーナスに直面し、成長率が低減することが懸念される。また、人口減少は資本投入へも影響を及ぼす。例えば、人口が減ることで必要な住宅ストックや企業における従業員1人当たり資本装備は減少することになる。また、高齢化が進むことで、将来に備えて貯蓄を行う若年者が減少し、過去の貯蓄を取り崩して生活する高齢者の割合が増えることで、社会全体で見た貯蓄が減少し、投資の減少にもつながる。
生産性についても、生産年齢人口が増えていく経済と減っていく経済について比較すると、生産年齢人口が減っていく経済では生産性が落ちる可能性が指摘されている。例えば、人口規模が維持されれば、多様性が広がり、多くの知恵が生まれる社会を維持することができる。また、人口構成が若返れば、新しいアイディアを持つ若い世代が増加し、さらに経験豊かな世代との融合によってイノベーションが促進されることが期待できる。逆に言えば、人口が急減し、高齢化が進む社会においては、生産性の向上が停滞する懸念がある。
※引用:内閣府「選択する未来-人口推計から見えてくる未来像- Q11」
まとめ
賃金上昇が物価上昇に追い付かない、世界的に見て経済成長がふるわない、少子高齢化が進んでいるなどの日本の現状・将来予測を踏まえると、インフレが加速していくことは避けて通れないと推測できます。これからはインフレを考慮した家計管理や資産形成が重要になってくるでしょう。次回はインフレ対策にどのようなことが考えられるか、インフレに強い資産の話などをしたいと思います。