女性が住宅ローンを組むとき、審査のポイントになるのは?【前編】
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これらは、女性に向けた住宅ローンの記事を書こうとネットで検索したとき上位にヒットしたものです。
他にも女性・住宅ローンのあとには「転職」「離婚」「無理」などなぜかネガティブなことばが続きます。
では、女性が住宅ローンを組むのはネガティブなのでしょうか?
そもそも女性の住宅ローン審査はきびしいのでしょうか?
いえ、そんなことはありません。
筆者の私は勤続30年の銀行員で、女性の住宅ローン審査にも多く取り組んできました。
そうした自分の経験から
女性が住宅ローンを組むのはネガティブじゃない
住宅ローン審査は女性にきびしくない
銀行員はこう考えています。
そこで今回は、女性が住宅ローンを組んで自宅を手に入れるときに気を付けたいポイントを解説します。
これから自宅を手に入れたいと考えている女性、また将来の人生設計をイメージした独身女性の方はぜひ参考にしてください。
女性・住宅ローン審査のポイント
ひとつ目となるこの記事では、2回にわたり、住宅ローン審査について女性を中心に説明していきます。
とはいえローンの全般に共通することも多く「住宅ローンの入門編」として読める内容になっています。
また「ローンとは?」という広い意味で不動産投資ローンにもつながるので、
興味がある女性の方には参考になると思います。
今回は、ローン審査のポイントを、以下の順に説明していきます。
女性・住宅ローン審査のポイント
1. 仕事:続けてきたか? 続けていけるか?
2. 年収:自分が維持できるか? 会社が維持できるか?
3. ローンの「借り方」:ひとりで返す? ふたりで返す?
ポイント1.転職
時代とともに仕事に関するとらえ方も変わってきました。
終身雇用や年功序列と言った言葉自体、もう聞かなくなった現在では、入社してから一つの仕事を定年まで続けることが、ただ一つの正しい道ではありません。
自分をステップアップさせる転職も、ごく普通にあることです。
ただしそれは現実での話であって、住宅ローン審査で転職はマイナスです。
決して転職が悪いとか、正しくないという意味ではなく、
貸りたお金が返せるか?を問う住宅ローン審査では勤続年数は長いほうが良いのです。
勤続年数は長いほうが審査で有利、ここに説明は不要でしょう。
そこで住宅ローン審査では転職を
「自己都合による転職はマイナス」「ステップアップによる転職はプラス」
といったように区別しています。
▼「自己都合による転職」はマイナス
理由は転職が本人に起因する(イヤだから、飽きたから)と見られてしまうからです。
仕事が長続きしない人は収入面で不安定になるので、審査ではマイナスに影響してしまいます。
たとえばローン審査において、会社員として長く勤めているなら、年収は前の1年分をチェックします。
しかし転職して間もない場合では、前勤務先と現勤務先の年収を加重平均されるなど、年収の安定度でネガティブになるのが避けられないのです。
ちなみに勤続年数という数字だけで判断するのが審査の原則なので、転職した原因が「会社がブラック」などやむを得ない事情であっても、そこを考慮してもらえることはまずありません。
(「数字だけで審査」については本文下部で説明します)
▼「キャリアアップの転職」はプラス
この場合のキャリアアップは「年収が増えた」という意味になります。
数字で審査するローン審査では、年収という数字が増えれば有利になるからです。
したがって仕事の質、社会的ステータスといった面が上昇したとしても、ローン審査では無関係です。
いっぽう転職歴が多かったり、転職までのスパンが短かかったりする人は、スキルアップと考えにくくなってしまいますので注意が必要です。
逆に、勤めていた会社が破綻した場合などは柔軟に解釈してもらえるケースが多いです。とはいえその場合も、
再就職先で審査されることになるので、年収や会社規模などの数字が下がれば不利になってしまいます。
▼派遣社員は審査でどう見られる?
ライフスタイルや働き方の多様化で、派遣社員として働いている女性も多いでしょう。
住宅ローン審査で派遣社員は、正社員と同様に判断する部分と、同様に見られない部分に分かれます。
正社員と同様に判断する一つが「身分」です。
まず派遣社員は、正社員と同様に「正規雇用の従業員」に分類されます。
住宅ローン審査で考える「非正規雇用」とは、アルバイトやパートタイマーなど社員ではない雇用形態(アルバイトは社員のように、健康保険や厚生年金に加入しないなど)を意味します。
いっぽう派遣社員は「派遣会社に正規雇用されている従業員」と考えられ、正社員と同じ分類になるのです。
そのため勤続年数は、たとえばある企業に派遣されている期間が1年や半年だったとしても関係なく、派遣会社に勤めている年数が勤続年数になります。
しかしながら、同じ派遣会社に勤めていれば勤続年数だと考える銀行と、雇用形態が派遣の場合は一律に勤続年数を最短(1年以内)などにしてしまう銀行もあるようで、対応はまちまちです。
このように派遣社員は、正社員と同じ身分だとは言え、審査では同様に判断してもらえない部分があるのです。
これは雇用形態や年収水準、保険や年金制度など正社員と違う部分があるからで、
決して派遣社員がダメということではなく、あくまでローン審査で不利だという意味です。
また住宅ローンの条件で「派遣社員はダメです」と明記している銀行は少ないですし、派遣社員の表記もいろいろなので、実際は銀行で確認する必要があります。
Q. 正社員ではありませんが、住宅ローンを利用することができますか?
A. 雇用形態が正社員ではなく、契約社員・派遣社員の方もご利用いただけます。
健康保険・厚生年金保険の被保険者であり、雇用保険への加入が確認できることが条件となります。
※ 審査の結果、ご希望に添えない場合もございます。
※ アルバイト・パート・年金収入のみの方・無職の方はご利用いただけません。
イオン銀行/よくあるご質問
https://faq.aeonbank.co.jp/faq_detail.html?id=3298
▼豆知識1 健康保険証で勤続年数がわかる?
勤続年数について触れましたので、ここで豆知識を一つ紹介します。
住宅ローンの審査では、必要書類として健康保険証があげられる金融機関が大半です。
これは「勤続年数」と「現在も勤務しているか」を確認するためです。
ちなみに同様の確認書類として「勤務証明書(在籍証明、在職証明など)」もあります。
これも会社に何年勤めているか、会社が証明してくれる書類ですが、本人としては会社に頼みづらいですし、また会社も証明書の発行は手間なので、こちらは少数派です。
これが健康保険証なら、記載されている「資格取得年月日」が、その会社に入社した日となり、ここから勤続年数が計算できるのです。
健康保険証は公的な身分証明なので、会社が証明書を発行するより信頼性があります。
いっぽう残念なことですが、審査にマイナスだからといって、退職した会社の健康保険証を証明書に使おうとする人や、悪質なケースでは健康保険証を偽造する人もいます。そこで、こうした不正を防ぐために、健康保険証は現物を持参してもらい、銀行員が確認(これを原本確認という)したうえでコピーを取ることになっています。
これは運転免許証なども同様です。
またネット申込など自分でアップロードする場合は「添付書類に誤りや偽造があれば審査に通らないこともある」といった注意書きがあります。
▼産休、育休とローン
勤続年数に関連することですが、産休や育休は女性に多く想定されることです。
ただし、正社員としての資格がなくなる場合などは注意が必要です。
例えば一旦退職したといった扱いになると、勤続年数が産休で途切れ、ローン審査でマイナスになる恐れもあることは、ぜひ覚えておいてください。
また、すでに住宅ローンを返済している人にも影響があります。
例えば産休や育休になっても、会社からの給料や手当、貯蓄などで返済を続けられるなら問題ありませんし、銀行に届け出る必要もないのです。
いっぽう収入が減り、返済が苦しくなった場合などは深刻な問題になる場合もあります。
また最近増えつつある、男性パートナーが育休を取得する場合もこれらと同じ心配があります。
ポイント2.年収 自分が維持できるか? 会社が維持できるか?
年収の維持については「自分が維持できるのか?」「会社が維持できるのか?」
という2つの視点があります。
これは、ローンを返済できるかを判断する基準として、返済の基になる収入が途切れないことが大前提だからです。
▼自分が維持できるか?
筆者が銀行に入社した30年前の頃なら、仕事を続けるのは当たり前で、しかも年功序列が普通でした。
ですからその当時の住宅ローン審査では、入社してから自動的に年収が増えるので返済は大丈夫、というシナリオが描けたのです。
しかし現在では、もう年功序列という言葉すら聞かなくなりました。
このように実力主義が当然になると、何年後に収入が増えるか?ではなく
現在の収入を維持できるか?を重視する審査に変わっています。
たとえば正社員の場合でも、定年まで一つの部署にいられるか?は重要な点です。
社内のきまりにより、特別なキャリアコース(5年間は外部企業に出向を義務化)などがある場合は要注意です。
なぜなら同じ会社に継続して勤務している証明が難しい場合には、審査でマイナスになる可能性もあるからです。
▼会社が維持できるか?
こちらは自分ではなく会社が維持できるか?という点です。
つまり会社が存続できるか?もっと言えば「倒産しないか?潰れないか?」がチェックされます。
現在の住宅ローン審査で主流になりつつある「AI審査」では、この会社の持続性が非常に重視されています。
▼豆知識2 AI審査
人工知能や専用のソフトウエアにより、現在の住宅ローン審査は機械化されており、これが「AI審査」と呼ばれるものです。
AI審査では個人の様々な情報をもとに点数化・スコア化して審査することから
「スコアリング審査」とも呼ばれています。
AI審査では本人の年齢、年収、勤務先、勤続年数といった項目をもとにして、膨大な情報(ビッグデータ)を基にしたモデルケースを想定し、そのモデルと比較して良否を判断するのです。
言ってみれば「ローン申込者の通信簿」で、モデルケース(平均的な人物像)と比べて上か下か?を点数で評価されるのです。
ここでは勤務先の判断基準に「勤務先の資本金」があります。
勤務先が大企業なのか、零細企業なのか?を客観的に数値で判断するために資本金の大小で判定するわけです。
また会社がつぶれる可能性は予想できることではありませんが、これも資本金の大小で一つの指標とできるのです。
ちなみに資本金が無くても公務員や教職員は別格で最上位です。
これは言うまでもなく「潰れないから」という観点で、公務員の次には上場企業、そして「資本金〇〇億円以上」(基準は金融機関によって違う)と区分されます。
ポイント3.ローンの「借り方」〜ひとりで返す?ふたりで返す?
住宅ローンの「借り方」にはいくつかの種類があります。
ここでいう借り方とは、自分1人で借りるのか?パートナーと協力して借りるのか?といった点です。
そこで、ローンの借り方についての基本的な説明と、女性ならではの注意点を
それぞれ説明していくことにします。
▼ローンの「登場人物」
ローンでいう主役とは借りる本人のことで、これを「債務者」と呼びます。
脇役は「連帯保証人」で、本人と同等の責任と義務を負い「返済の保証をする人」です。
そして夫婦やパートナー同士で同時に借りるのが「連帯債務」「ペアローン」です。
ではこれを、映画の登場人物で分けてみましょう。
<ローンの借り方~ローンの「登場人物」>
▼1)債務者~ローンを借りて返していく当事者「主役、メインキャスト」
▼2)連帯保証人~ローンの返済を保証する人「脇役、バイプレーヤー」
▼3)連帯債務者~1つのローンを一緒に返していく当事者「ダブルキャスト」
▼4)ペアローン~2つのローンが同時に進んでいく「2本立て上映」
▼1)債務者~ローンを借りて返していく「主役」
債務者とは、文字通り債務を持つ者のことで、ネガティブな表現なら
「借金を背負っている」「債務の返済義務を持つ者」といった意味になります。
対義語は「債権者(債務の返済を受ける権利を有するもの)」となり、
こちらはローンを貸す金融機関を指します。
映画や演劇では主役がトラブルで出演できなくなれば代役を立てることもありますが、ローンでは代役はいません。
これは連続ドラマと同じで、年齢設定などストーリー上必然的な場合を除き、突然主役が交代するのは無理があることを想像してください。
代役がいないので、主役が返済できなくなればローンは終幕つまり「破綻」となります。
▼2)連帯保証人~返済を保証する欠かせない「バイプレーヤー」
主役が倒れたあとの責任をもつのが連帯保証人です。
倒れる前でも返済を求められるなど、主役に近い責任と義務を負うので、ニュアンスとしては脇役というよりバイプレイヤーです。現在のエンターテイナーでは、バイプレイヤーがいなければ映画やドラマは成り立たないことでも、連帯保証人の重要度がわかると思います。
ところで、ここまで連帯保証人と繰り返したが、これは保証人に2種類あるからです。
連帯保証人と保証人(単純保証人とも)の違いは、その権利です。
保証人には「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」が認められ、これらがあるとお金を貸した債権者は保証人に債務の返済を求める障壁になります。
したがってこうした権利がない連帯保証人のほうが、お金を貸した債権者は安心なのです。
現在では住宅ローンや事業資金融資、カードローンまで金融機関や消費者金融などで保証人と言えばすなわち連帯保証人を指します。
(「催告の抗弁権」など興味のある人は引用をご覧ください)
金融中央広報委員会/知るぽると/連帯保証人とは?
https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/yogo/r/rentai_hoshonin.html
▼3)連帯債務者~1つのローンを一緒に返していく「ダブルキャスト」
連帯債務扱いとは「1つの融資に債務者が2人」という契約のことです。
このあとのペアローンも一緒に、パートナーと2人でローンを組み、新築1戸建てを購入するケースで説明します。
【モデルケース】
●Aさん(女性・会社員)と夫(会社員)の2人で5,000万円の新築1戸建てを購入する
●ローンは2人とも同額とする(シンプルにするため自己資金や諸経費は考慮しない)
モデルケースが連帯債務の場合は5,000万円のローンを2人で契約し返済していくことになります。
5,000万円の1契約なので、ローンの申込みや契約書類は1組で、2人が連署する形です。
このローンに保証会社の保証が付けば5,000万円の保証料が必要で、印紙や手数料も5,000円に対する金額となります。
また連帯債務では、債務者が2人いるので連帯保証人は不要になります。
(*保証会社扱いの場合。保証人扱い住宅ローンなら、別に連帯保証人が必要になる)
不動産の名義は、2人が平等にお金を出したので2分の1ずつになります。
このとき担保の金額(設定額とも)は5,000万円の一口です。
団体信用生命保険(*)はAさん2,500万円、パートナー2,500万円にそれぞれ加入することになります。
(*団体信用生命保険:ローンを借りている債務者が死亡したときなどに保険金でローンが完済できる生命保険、
(住宅ローンでは必須で、保険料は毎月の支払いに含まれる)
▼4)ペアローン~2つのローンが同時に進んでいく「2本立て上映」
ペアローンとは「債務者が2人、それぞれ半分ずつローン契約をする」という契約。
モデルケースがペアローンの場合はAさんが2,500万円、パートナーが2,500万円それぞれローン契約する形になります。
2,500万円×2契約なので、ローンの申込みや契約書類は2組で、それぞれが署名します。
保証会社の保証が付けば5,000万円の保証料(2,500万円×2)が必要で、印紙や手数料はそれぞれ2,500万円に対する金額となります。
ペアローンではAさんはパートナーの連帯保証人に、パートナーはAさんの連帯保証人になります。
これは、住宅ローンでは担保になる不動産の所有者(共有者)はローンに対して担保を提供する人として連帯保証人(正式には「担保提供者兼連帯保証人」)になるのが一般的だからです。
不動産は2分の1ずつ共有なので、ペアローンでは相手に対する担保提供者として連帯保証人になるのです。
いっぽう連帯債務では、2人とも債務者であり、2人とも自分の不動産を担保にするので担保提供者は存在しないという解釈で、担保提供者兼連帯保証人も不要となります。(*金融機関によっては連帯債務で2人を双方の連帯保証人にするところもあります)団体信用生命保険は連帯債務と同じで、Aさん2,500万円、パートナー2,500万円にそれぞれ加入することになります。
▼比較表・連帯債務とペアローン
ここまでの説明ではわかりにくいかもしれないので、一覧表で比較します。
<連帯債務とペアローンの比較> 5,000万円の1戸建てをパートナーと2人で購入
ローンの種類 | 契約形式 | 署名捺印 | 費用(保証料や印紙) | 連帯保証人 | 担保 |
連帯債務 | 5,000万円の1契約 | 1組の契約に2人で連署捺印 | 5,000万円に対する金額 例:印紙代は5,000万円に対し2万円 | 保証会社扱いなら不要 | 5,000万円の1口 |
ペアローン | 2,500万円の契約×2本立て | 各自が自分の契約に1人で署名捺印 | 2,500万円に対する金額 例:印紙代は2,500万円に対し2万円×2・合計4万円 | 自分が相手の保証人になる | 2,500万円が2口 担保順位は同順位 |
連帯債務者とペアローン、どちらになるか?ですが、実は明確な線引きがなく金融機関任せなのが実態です。
また費用についても、印紙代など一部で重複してしまう部分もありますが、基本的には半分に分けるイメージなので、連帯債務もペアローンもどちらを選んでも損得なしです。
両者の違いを論ずると本題から離れるので、ここでは知識として2つあると覚えるくらいで良いでしょう。