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男女の仲が原因で発生する住宅ローンの困ったことを銀行員が解説【後編】

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住宅ローンを組んだパートナー同士が仲違い(※)したときに起こる、住宅ローンにまつわる「困りごと」について、全3回に分けてお届けしている本コラム。

前編【親名義の土地に家を建てたケース】
中編【不動産を共有した場合】
とお伝えしてきた本コラムも今回で最後です。

今回は、【ペアローンや連帯債務でローンを組んだ場合】に起こる困ったことについて解説します。
ペアローンは一方が所要額の半分を、もう一方も半分を借りる形式です。
そして連帯債務は、2人が連帯債務者となり所要額の全額を借りる形式になります。
詳しい説明は本文下部にありますので、まずは事例から見ていくことにしましょう。

(※この記事では、夫婦連帯債務やペアローン、また不動産を共有している場合などのトラブルとその対処法を解説しています。そこでの問題点は、必ずしも法律上の夫婦関係とリンクするものばかりでは無いので、あえて「仲違い」と表現しています。
また表現をシンプルにするため男女、夫・妻といった表現を使っていますが、この部分も異性同性のパートナーとイメージして結構です。)

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婚約者とペアローンを組んで一戸建てを購入して、そのあと婚約解消したCさん(女性・会社員)

Cさんは職場の同僚である婚約者と、ペアローンで半分ずつローンを組み一戸建てを購入しました。
Cさんも婚約者も結婚式や披露宴などはあまり思い入れがなかったそうで、入籍を前に新居を購入したそうです。
それぞれ1人だけでは借入できない額でしたが、ペアローンがあるおかげでマイホームを手に入れることができました。

端的に表現するなら
●ペアローンは同じローンを2人が同時に借りる
●連帯債務は2人が1つのローンを借りる
といったところです。

並べて見ても両者の違いがわかりにくいのですが、実はペアローンと連帯債務は銀行でも扱いが統一されていません。
ペアローンか連帯債務のどちらか1つしか取り扱っていない銀行もあれば、両方ラインナップされているのに「この場合はペアローン、これは連帯債務」といった線引きはなくケースバイケースなのが実態です。
しかしこの記事は両者の違いがポイントでないのでこのくらいにして、それぞれの基本事項の説明に留めておきます。
なお違いを比較するために「1本のペンを2人で買う」という、たとえ話で説明したいと思います。

ペアローン

1本200円のペンを太郎さんが100円、花子さんが100円ずつそれぞれ借金して買い、ペンは太郎さんのものであり、花子さんのものでもある。
これがペアローンのわかりやすい説明です。

ペアローンでは両者はそれぞれが借りる人(債務者)になって、同時進行で独立して借入します。
具体的にはローン申し込みから審査、契約から担保手続き、そして返済もそれぞれの口座から引き落とされます。
まったく別のローンを2つ、ペアを組んで借りるからペアローンと呼ばれています。

連帯債務

1本200円のペンを、太郎さんと花子さんが2人で200円を借りてきて買い、ペンは太郎さんのものであり、花子さんのものでもある。
これが連帯債務のわかりやすい説明です。
冒頭お話ししたように両者の違いは分かりにくいので、あえてこのような表現にしました。

連帯債務はひとつのローンを連名で借りるのですが、こうして債務者が2人いるのが連帯債務です。
ローンの申し込みから審査、契約から担保手続きまで、契約書類は一組で、すべて2人が連署する形式になっています。
そして返済は、通常どちらか代表した一人の口座から引き落とされます。
連帯債務では、代表する人を「主(しゅ)たる連帯債務者」そしてもう一人を「従(じゅう)たる連帯債務者」と区別しています。
主従とはあくまで便宜的な区別であり、主従二人の責任や義務は平等です。
ひとつのローンを2人が一緒(連帯)に借りるので連帯債務と呼ばれています。

Cさんに起きた「困ったこと」

しかしその後Cさんの婚約は解消され、話し合いの結果自宅にはCさんだけが住み、(元)婚約者が出ていくという結論に至りました。
そしてCさんの前に、解決しなければいけない問題と選択が残りました。

<Cさんに起きた問題と選択>
● ローンの担保になっている不動産の名義は変えることはできるのか?
● 婚約解消が自分のローンに影響はしないのか?

解説1.「担保と不動産の関係」
~借金の担保でも名義変更はできる?~

自宅をどうするか考えたとき、まずCさんの頭に浮かんだのは「住宅ローンという借金の担保になっている不動産を、婚約者から自分へと名義変更できるのか?」という疑問でした。
回答から先に言うと、借金の担保になっていても、不動産の名義変更はできます。

名義変更と一口で言っても、婚約者からCさんに所有者を変えてしまうとCさんが不動産をプレゼントされた、つまり贈与と見られてしまいますので、その場合はCさんが元婚約者の持分を買い取る売買をすることになります。
しかし売買の場合でも、担保(婚約者名義の住宅ローン担保)が付いたままで名義変更はできてしまうのです。
不動産の所有権(名義のこと)は、登記簿謄本では「権利部・甲区」に記録され、いっぽう担保は「権利部・乙区」に記録されます。
甲区記載事項と乙区記載事項はそれぞれ別々に変更できる、というのがその根拠です。
しかし、もっとわかりやすく言うと「担保が付いたままの不動産を欲しがる人はいないので、逆に名義変更したければ自由にどうぞ」という理屈なのです。
※参考出典:法務省HP/不動産登記のABC

解説2.「担保と不動産の関係」
~分筆は自由にできるが、合筆は承諾が必要~

担保と不動産の関係についてもう一つ解説します。
1つの土地を2つ以上にわけることを「分筆・ブンピツ」と言い、いっぽう2つ以上の土地を1つにまとめることを「合筆・ゴウヒツ(ガッピツとも)」と呼びます。
担保が付いている土地では、分筆は自由にできますが合筆は承諾(債権者・お金を貸している銀行などの)が必要になります。
分筆しても、分かれて生まれた土地に担保はそのまま引き継がれます。
しかし合筆の場合、担保が付いていなかった土地を、担保が付いていた土地と一緒にすることはできないのです。
これも上記の名義変更と似ていて「担保になっていない土地を、担保が付いている土地に加える人はいない」という理屈から来るものです。

●担保が付いていても名義変更は自由にできる
●担保が付いている土地を分けるのは自由にできるが、他からくっつけるのは承諾が必要
この2点は担保と不動産の関係で重要な点なので、ぜひ覚えておいてください。

Cさんの選択と迎えた結末

Cさんは元婚約者の持分を買い取る選択をしました。
そして必要な金額の半分を自己資金で、残りをローンで借りることにして、自分のローンを組み直しました。

具体的に説明すると
1.Cさんたちは同額で半分ずつ借りたので、ローン残高はまったく同じ、1対1だった
2.元婚約者のローンを半分返済し、半分借りるのでCさんのローンは前の1.5倍になった
3.合計で1.5倍となった2つのローンを借り換えてCさんだけに一本化に組み直した
という流れです。

元婚約者のローン半分を返すお金以外に、自分のローンを組み直すことで登記費用(前の担保を解除して、組み直したローンの担保を設定する)もかかりましたが、最終的にCさん1人の自宅、Cさん1人のローンにまとめられたのも、Cさんそれまで資産形成をしてきたからです。

こうするべきだった~最初の選択を銀行員が考える~

Cさんの解決まで対応してきた銀行員の私は、この事例で学びました。
●婚約者同士でローンを組むのは、リスクも伴うことを考える必要がある
●やっぱり最後に頼れるのは自分、そして自分の資産だということ

ライフスタイルや結婚観も多様化した現在では、婚約の状態でローンを組む人達も増えています。
婚約者同士でペアローンを組む場合には「お互いがもう一方の保証人、お互いがもう一方の担保提供者」という関係です。
これを銀行では「相(アイ)保証」「相(アイ)担保」と呼び、文字どおり相互に保証、相互に担保提供している状態なのです。
言い換えれば婚約者同士で保証し合っているからこそローンを借りることができたわけで、婚約者同士のペアローンでは予定通り結婚してもらうのが大前提なのです。
もちろんいくらお金を貸しているとはいえ、男女の仲まで銀行に縛られる義務はありませんが、ローンの契約では「結婚して一緒に生活することを前提に融資しました」などと条件が付いている場合もあります。
その場合、婚約解消になると最悪ではローンの返済を求められる恐れもありますので、契約内容はしっかりと確認しておく必要があります。
Cさんのケースも同様で、自分に資産があったからこそ困りごとを解決できたというわけです。

「困ったこと」に備える資産形成 分配型投資信託

Cさんが資産形成のひとつに選んでいたのが「分配型投資信託」です。
● お金に働いてもらう
● 解約しなければ損も得もない
Cさんはこうとらえて、まとまったお金を分配型投資信託で資産形成しました。

分配型投資信託

分配型投資信託とは、運用の成果を分配金として原則毎月受け取れる投資信託です。
もちろん投資信託は元本保証は無く、また運用成果も約束されたものではありません。
しかし分配型投資信託は、毎回の分配金がセールスポイントなので、分配できるような投資先を選定するなど工夫しているのです。
ところで、投資信託の性質を指して「お金に働いてもらう」と表現されることがあります。
この分配型投資信託は「お金に働いてもらう」資産形成の代表格と言えるでしょう。

いっぽう、分配型投資信託を「タコ足投資信託」と揶揄する場合もあります。
投資信託には基準価格という指標があり、この基準価格の上下で損得が決まります。
通常、投資信託の基準価格は10,000円で、自分が購入したときの基準価格が10,000円だとして、今日の基準価格が9,900円なら100円分の資産が目減りしていることになります。
例えば基準価格10,000円の分配型投資信託を100万円(10,000円×100口=100万円)購入した場合、解約した日の基準価格が9,000円(9,000円×100口=90万円)になっていたなら10万円の損失、その逆で11,000円なら10万円プラス(11,000円×100口=110万円)となります。(手数料は考慮せず)

これを分配型投資信託で考えるとどうなるでしょう?
毎月分配金をもらえるのはうれしいのですが、基準価格が値下がりしていた場合、もし解約した場合には損する可能性があるのです。
このように、分配金を出し続けながらも投資原本が目減りしている状態を、海に住むタコが空腹で自分の足を食べるという表現を使い「タコ足投資信託」と呼ぶことがあるのです。

分配型投資信託は、資産形成する人のとらえかた次第です。
「解約しない限り損もトクもないんだから、これからも投資した自分のお金に働いてもらおう」
Cさんもこういった考えでした。
いっぽう、たとえば分配型の投資信託とは違って、元本を減らすことなく働いてもらう商品もあります。

まとめ~自分を助けてくれるのは自分と自分のお金!~

全3編を通して、住宅ローンで男女の中から発生する困りごとと、その解決法まで解説してきました。
私が銀行員として経験した3つの事例も、解決できたのは3人の女性が自分で資産形成をしっかり続けてきたからです。
「最後に自分を助けてくれるのは自分と自分のお金」
これは、銀行員生活30年の私が掴んだ一つの真理だと、今でも思っています。
そして、最後に「2つのコツ」をお話しします。

まず1つめは男女の仲と住宅ローンに関して
2人が別れなければ困りごとはおきないというコツです。
これは決してふざけているわけでも、言葉遊びしているわけでもありません。
困りごとを紹介したからと言って、結婚を否定するつもりはないからです。
一人で生きるのも、パートナーと共に生きるのも、それぞれの人生で正解不正解はありません。
私は妻と子供の家族を持てて幸せですが、そのいっぽうシングルで生きている人も素敵だと感じています。

そして2つめのコツ、それは
住宅ローンを組んだあとの資産形成は正々堂々、自分名義で貯える
というものです。
例えばあなたが結婚して住宅ローンの返済が始まったと想像して、そのあと資産形成するとき、名義はどうしますか?
財産分与で触れましたが、夫婦の資産は共同して作り上げたものとの考え方があるので、別に夫名義でもいいのでは、と考えますか?
いえ、そこは自分名義にすることを強くおすすめします。

基本的に、預金でも投資・運用でも、その名義人が所有者です。
財産分与であなたのほうがパートナーに提供するときもあなた名義の資産があれば、それはあなたのものだと主張しやすく、その逆に相手名義で「それは私のものでもある」という場合では重さに雲泥の差があることはわかると思います。
そして、自分名義で資産形成を始めるときはこっそり「へそくり」のようにしないで、正々堂々と「これは何かあったときに自分を助けてくれる自分のお金」と(冗談っぽく、あるいはストレートに表現するかはその場の雰囲気で)宣言することがポイントです。
細かいことと感じるかもしれませんが、実際に仕事で何度も男女の仲たがいに巻き込まれた(失礼)銀行員として、この資産形成の名義は本当に大事だと、最後にお伝えします。

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